真夜中、シーラは気分が悪くてなかなか寝付けずにいた。
だからといって出るものも出そうにないし、ただひたすらに何度も寝返りを打ちながら嘔気を晴らそうとしていたが、なかなかしんどくて、ぐすぐすと泣いていた。
いつも大抵、そういうときはリリーが来てくれて、落ち着かせてくれる。
でも、その日は違った。
布団でくるまっていると、手で撫でられるような感触があり、シーラはリリーが来てくれたのだと思った。しかし……
「……リリーさ……あ……」
布団から顔を出したのだが、そこにいたのはリリーではなく、ライラックだった。
「なによ、そんなあからさまに嫌そうな顔しなくてもいいじゃない。」
はっきり言って、シーラはライラックが好きではなかった。リリーのことをいつも揶揄したりすることを良く思っていなかったからだ。
「リリーさんは来られないのですか?」
「あいつは今日は調子が悪いの、だから私が来たっていうのに……」
当時のシーラは、リリーの”調子が悪い”の意味を理解していなかったので、よくわからずとも、ライラックが来たことには少々不満があった。
「あんたが私のこと嫌いなのは分かってるけどさ、私は……嫌われようとしてあんなことをしているわけじゃない。」
ライラックは、シーラの背中をさすりながらそうつぶやいた。
それからしばらくはふたりとも黙っていたが、突然ライラックが、シーラをさするのをやめて立ち上がった。
「やば……あいつまた……」
ライラックは険しい顔で、どこか遠くを見つめているようだった。
「……仕方ないか」
そうため息をつくようにつぶやいたライラックは、妖しげに光る弓矢を(魔法で)手に取り、先程見つめていた方向に矢を向け、放った。矢は部屋をすり抜け、どこかへ行ってしまったようだった。
「……何をしているのですか?」
シーラはそう質問したのだが、
「……私だって、本当はこんなことやりたくない。」
と、かみ合わない答えが返ってきた。そう言ったライラックは、どこか悲しげな表情をしていた。ので、シーラはそれ以上のことは訊かなかった。
またしばらく静かになったが、ライラックは独り言を言うように語りだした。
「私はリリーのために生きてる。あいつが言ったことは何でもする。だから……傷つけろと言われたら傷つけるし、殺してと言われたら、たとえリリーでも殺す。」
シーラは、思わず反応してしまった。
「いくらリリーさんの言うことであっても、殺してはいけないでしょう」
すると、ライラックは苦笑いをした。
「ばーか、あいつがそんな無責任なこと言うわけないじゃない。あんたと違って、私はずっとあいつのこと見てきたんだから。」
……シーラは、何も言い返せなかった。
「私いつも、あいつにヤなこと言ってるでしょ。でもあれも、あいつから頼まれてやってることなんだからね。”私が堕ちそうになったら、私の気を逸らしてちょうだい”ってさ。……言い訳じゃないけど、私だってあいつのこと傷つけたくて言ってるわけじゃないんだからね?」
シーラは、リリーがそんなことを言うなんてなんだか信じられないような気もしたが、今までのことを思い返してみると……ライラックがリリーのことを揶揄するのは、いつも決まって、リリーが自虐するようなことを言っていたり、泣きそうになっていたりするときだったような気もするので、あながちライラックの言うことに矛盾はないようにも思えた。
「あんた、もう落ち着いたでしょ?さっさと寝なさいよね。今日はあいつも調子悪いんだから……私は戻るわよ。」
そう言って、ライラックは戻っていった。思えば、なんとなく先程よりも楽になっているような気がして、シーラはやっと眠れそうな気がした。



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