ハーシェルが特につらかった頃のお話

このページには、R指定はかかりませんが(個人的にはR12~15くらいかけたい)、私の創作……特にぬくぬくなゆらりぃさんしか知らない方には全くお薦めできない・かつ私の創作の内たる部分を知っている方でもしんどい内容になるかと思います。
簡単に言いますと希死念慮のお話なので(今回は直接的な虐待の表現は入りません)、苦手だと思った方はそっとこのページを閉じてください。
なお、私はこうして忠告をしているため責任は一切取りません、自己防衛をお願いいたします。


ハーシェルが生きてた頃のお話で少しお話したかもしれませんが、ハーシェルは母親のクレーシュから様々な虐待を受けていた……というか、ほぼそれはネグレクト(育児放棄)なのですが、たまにハーシェルのことを消してしまおうとすることもあり……後継ぎにさせるユウェネスのことは、クレーシュはとても大切に思っていた(後を継いでもらわないと困る)ので、ユウェネスはまあ、半分脅しのような形にはなりますが、その立場を利用してハーシェルへの攻撃を阻止していました。

というのが前置きです。

今回は、ハーシェルが逆にその母親を利用しようとしたお話です。


9歳~10歳頃でしょうか、おそらくパフィオと出会う前のことです。
体調が悪く、ユウェネスに介助してもらうことが多くなっており、肉体的にもですが、精神的にもかなりきつくて。ユウェネスは何度も言ってきました、迷惑じゃないし、あなたが好きだからやっていることだ、って。それでもこのときばかりはハーシェルは、さすがに……ユウェネスは勉強熱心で学校にも行きたいだろうに、自分のせいで、学校に行くどころか勉強すらできていませんでした。ユウェネスが家業の後継ぎになることも知っていたハーシェル……学校どころか勉強どころか、家業の修行(?)もできていないことを悟っていたので、このままではユウェネスも母親に怒られてしまうのではないかと、不安でたまらなくて。体調もなかなか良くならず、思考はどんどん消極的になっていきました。


どれくらい経ったことでしょう……ハーシェルはやっと起き上がれるようになるまで回復しました。それでも、不安は拭えませんでした。ユウェネスはいつも優しくて、いつも笑顔で接してくれる……母親といるときはそれこそ冷たくこわい顔をしていますが、ハーシェルの前で弱音ひとつはいたことはありません。
でも、ハーシェルはユウェネスがなんとなく……いつもの笑顔が曇っているように感じてしまって。私のせいでお勉強分からなくなっちゃったかな。私のせいで、お母さまに怒られてしまったのかな。……私のせいで、疲れてしまったかな。
ユウェネスは全くそんなことはないのですが、ハーシェルはそんな思い込みまでするようになってしまいました。


ハーシェルが浮かない顔をしているのはまだ体がしんどいからかな、なんてユウェネスは思っていました。まだ少し良くなったというだけでありそれは事実なのですが、ハーシェルはかなり精神的に疲弊していました。

お姉ちゃんの前ではできる限り平然を装うハーシェルですが、ユウェネスが目が届かない場所へ行くと、布団に隠れて必死に声を殺しながら泣いていました。ユウェネスがハーシェルに弱音をはかないのと同じように、ハーシェルもユウェネスに弱音ははきたくなくて。……互いに、心配されたくなかったからです。

「ごめんなさい」に「私のせいで」が加わり、そして「私なんていなければ」にまで発展していました。


そんなある日、ユウェネスはハーシェルに言われるがまま、午前中だけ学校に行くことにしました。お姉ちゃんに知られずにやりたいことがあったのです。

……ハーシェルは、よろめく体を壁を伝い支えながら、母親のもとへ行きました。ハーシェルは、このときばかりは妙な自信がありました。今まで散々、自分のことをなき存在にしようとしてきた母。この人ならきっと……

「……お母さま、」

ハーシェルは……体の疲弊と、母親の前に顔を出すという恐怖もあり、呼吸が荒くなって……それが聞こえていたかわからないくらいかすかに、声を絞り出すようにその人を呼びました。

当然のことながら、母は返事をしません。こちらを見ようともしません。

「……お願いがあります、聞いていただけませんか」

やはり母は、ハーシェルに全く応じようとしません。
……おおよそ二度までは聞き流してくれます、それ以上喋ると……恐ろしいことが起こることは予想できていました。でも、今回はそれでいいとハーシェルは覚悟できていました。

「私をころしてください」

母親はかっと目を見開いて、恐ろしい目つきでハーシェルの方へ振り向きました。

……お母さまならきっと、私をころしてくれる。
だって、いつもそうだった。わたしのこと……

母は、ハーシェルのもとに、いかにも怒っていますと言わんばかりにずかずかとやってきました。

「お前、今更何言ってんだよ」

「何自分勝手なこと言ってんだよ」

……ハーシェルは……恐怖もありましたが、それよりも言葉の意味が理解できず……震えながら、何も答えられずにいました。

「あの子がどんな思いで、お前をここまで大きくしてやったか考えたことはある?!」

「そんなあの子の想いを踏みにじる気なの?!」

……ハーシェルはそのとき、ユウェネスのことが頭をよぎりました。
いつも優しいお姉ちゃん。いつも私を守ってくれるお姉ちゃん。


【あなたが大好きだから】

……ハーシェルは唐突に理解してしまいました。そしてとても、とても怖くなってしまって、必死に逃げようと自由の利かない体で床を這うようにしてその場をどうにか立ち去りました。

やっとのことで部屋に戻れたハーシェルは、泣き崩れてしまいました。

……結局母はそれを怒鳴りつけただけで、何もしてきませんでした。
でも、それが……ころしてくれなかったことがいけなかったわけではありません。

お姉ちゃんがウソなんかつくはずがない。私はそのお姉ちゃんの気持ちを信用せず、自分勝手に死のうとしていた。……お姉ちゃんを裏切ろうとしていた。

抱えきれないほどのたくさんの「ごめんなさい」が、あふれて、あふれて……


「ハーシェル、ハーシェル!!」

ハーシェルは、ユウェネスの声で目を覚ましました。泣き疲れたのか、いつの間にかその部屋の扉の前で倒れるように眠っていたようです。ユウェネスは学校から戻てきて、ベッドで休んでいると思っていたハーシェルがこんなところで倒れているなんて、ただ事ではないと思って必死に名前を呼びかけていました。

「よかった、ハーシェル……本当に良かった」

ユウェネスは安心したように顔がほころびましたが……ハーシェルは、先程までのことを思い出して、ついユウェネスから目を逸らしてしまいました。

いつも、えへへなんてごまかすようにはにかむハーシェルが……そんなハーシェルの様子を見て、本当にただ事ではないと思ったユウェネスは、ハーシェルに訊きました。

「こんなところでどうしたの?お母さまに何かされたんじゃないでしょうね?」

いつだってユウェネスは母を疑います。母のことを信用していないので……。
目を合わせようともせず、動揺しているかのように何も答えようとしないハーシェル……今までもこんなことがありましたが、おおよそ母に危害を加えられていたときの反応なので、ユウェネスは今回も母を疑い、ハーシェルに「ちょっと待っててね」と言い、母のもとへ向かいました。

「お母さま、今度はあの子に何をしたのですか」

本当にいつも、母親でも関わらず、ユウェネスは真剣に怒ります。

「……私は何もしていないわ、アレからこっちに来たのよ」

「……は?」

ユウェネスは驚きのあまり、は?なんて変な声が出てしまいました。母親はいたって冷静でした。

「どういうことですか」

「だから、アレから私に『殺してくれ』なんて言ってやって来たのよ」

……ユウェネスは言葉を失いました。そして、大きな思いがこみ上げてきて、母に何も言わずその場を離れ、ハーシェルのいる部屋に駆け戻ってきました。

「なんで、なんで……」

ユウェネスはもう、ぼろぼろと目から落ちてくる思いを止めることができませんでした。そして、そのままハーシェルに抱き入り……今度は、口から思いがあふれ出しました。

「……ごめんね、ごめんね、私……知らなくて……分かってあげられなくて、ごめんね」

ハーシェルはもう返事する余力も泣く余力もなく、ただ床に横たわったまま、そんなお姉ちゃんの言葉を聞いていました。……お姉ちゃんは何も悪くないのに、なんて思いながら……。


ユウェネスは少し落ち着いてから、ハーシェルを抱き上げてベッドに連れていきました。ハーシェルは眠っているようです。……すごく落ち込んで、何がいけなかったのか考え込んで……

もともと、ユウェネスは自信なんてありませんでした。母親が母親としての役割を果たさず、自分だけで、この子を守っていく……そう決めたのはいいですが、上手くいかないこともありましたし、ハーシェルが発作を起こす度に「私はなんて無力なんだ」と、何もできない自分を責めてばかりいました。

それでも、ハーシェルの前ではそんな顔は見せませんでした。こんな頼りないお姉ちゃんだと思われたら不安になってしまうだろうから、って。

……でも、初めてハーシェルの前で泣いてしまった。ダメだなあと深くため息をついて、また涙ぐんで。ハーシェルが起きたらどんな顔すればいいんだろうって、そんなどうでもいいことまで悩んでしまって。

……その日は、ハーシェルはよほど疲れてしまっていたのか、目覚めることはなかった。


ハーシェルが目覚めてから、何事もなかったかのように優しく言葉をかけつつ、でも目はなかなか合わせられなくて。ハーシェルもいつもの笑顔はなく、うつむいて黙ったままだった。
それから少し時間をかけて元の関係に戻りつつはあったが、ハーシェルはまた「ごめんなさい」を言う数が増えてしまったし、ユウェネスも、隠してはいるけれど、不安や自責の念は残ったままだった。


ふたりのほんとの笑顔が戻ったのは、やはりハーシェルがパフィオと友だちになってからだろう。ハーシェルは嬉しそうに、ユウェネスにパフィオの話をしていた。

……パフィオとの話は【裏】ハーシェルが生きていた頃のお話で少しだけ書いたが、内容が全然足りていないので、いつか書きます。全年齢向けで公開できる範囲で、ね。

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