アステリアもリシェス出身なのかなぁ、まあまあいいところに住んでてさ。
大きなお家に住んでいたのかな。父と母、兄と妹、祖父母もいたようだ。他にもいたかもしれないね。
いつだろうか分からないけど、20歳前後かもう少し若いくらいかな。短期間で、家族が次々と亡くなってしまい、アステリアはひとり生き残ってしまった。
家族を殺したのではないかという噂が立つ。自身もかなり動揺していた。信じたくないけど、理由は分からないけど、本当に自分のせいで家族が亡くなっていったのではないかと、怖くなって。
もしまた、友人とか誰かを死なせてしまったらと考えると恐ろしくて。そんな友人知人たちからも冷たい目で見られるようにもなっていたけど。だからユアートに来た。
ユアートでも、人と関わることをできるだけ避けようと思って、人里離れたところに独りで住むことにした。生活は不便だけど、自分のせいで誰かを死なせてしまうかもしれないという恐怖が強く、それを考えると不便でも構わないと思っていた。
今までそんな、たくさんの家族に囲まれて暮らしていたアステリア……急に独りになって、知らない土地に来て、そこでも誰とも関わらずにいて……寂しくないわけがなかった。
村の集落に買い物にでも行こうとしてたのかな、そこで怪我をして気を失っているフリズレイヴを見つけた。そのときは寂しいとか関係なく、ただ「助けなきゃ」と思った。
でも、そんなフリズレイヴを介抱するうちに、温もりを思い出してしまった。だから、最初は気にする余裕がなかったとはいえ「近づくな」だの「動けるようになったらさっさと出ていくから」だの言われるのが、だんだんと悲しくなってきた。
そして、痛みは残るものの動けるようになったフリズレイヴは、本当に出ていこうとしていた。
そのときに「世話になったから、礼をさせてほしい。何か望むものはあるか」と訊かれ、思わず「なら、まだここにいてほしい」なんて言ってしまった。
返される答えは分かっていた。「何度言えば分かるんだ。私はディアブル、お前は人間。このまま私がいてもお前が危険に冒されるだけだ。」そして、小さくつぶやいた。「……それに、私は帰らないといけない……」
アステリアは、その小さなつぶやきでふと悟った。「……あなた、本当は帰りたくないんじゃないの?」
「……いや、帰らないといけないだろう。ここにずっと居るわけにもいかない」「だってあなた、一度も『帰りたい』って言わなかったじゃない。それに、『帰らないといけない』って言い方も気になるよ。」
「……まあ、確かに帰りたい場所ではないな。だが……」「なら、ずっとここに居ればいいじゃない。あなたは今まで散々近づくと危ないって言ってきたけど、こうして私は何ともない、きっとこれからも大丈夫よ」
「悪いがそれには応えられない。他に望むものはあるか?」「……ないよ、他はなにも要らない。」「……そうか、ならば仕方ない。世話になったな。では失礼する」「あっ……」
フリズレイヴは振り向きもせず、飛び立ってしまった。……その後ろ姿を見て、思わずボロボロと、涙と嗚咽するような声が溢れ出た。足に力が入らなくなり、崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。また自分は独りになってしまったという現実を叩きつけられた。涙が止まらない。止まらない。
「……おい人間、なぜ泣いている」フリズレイヴ(ディアブル族)は耳がとても良い……というのはアステリアは知らないかもしれないが、泣き声を聞きつけてなのかフリズレイヴが戻ってきた。
フリズレイヴ、そのまま去れば良かったものの、彼は〈優しすぎる〉のだ。泣かれていまうなんて堪ったもんじゃない。思いとどまってしまって、結局引き返してしまった。
……アステリアは泣いてまともに話せそうにない。フリズレイヴは距離を保ちつつ、アステリアが落ち着くのを待った。
「もう少し、もう少しだけでいいの、一緒にいてほしい」アステリアは涙ながらにそう言った。「……そう言われても困るんだが」「お願い……行かないでよ」フリズレイヴは本当に困っていたが、こうも乞われてしまうと断れない性格だ……しばらく悩んでいたが、ついに「……分かった、『もう少し』だけだからな」と返事をしてしまった。
「ありがとう、ありがとう」……と書くものの、涙声で実際には上手く発音できていないだろう……アステリアは思わずフリズレイヴに抱きついた。「お、おい!なにするんだ、離れろ人間!」フリズレイヴは驚いて困惑している。「人間って呼ばないでよ〜名前で呼んでよ〜」フリズレイヴはアステリアが痛くない程度に振りほどこうとしているが、アステリアは離れようとしない……もうハチャメチャだ。
そしてまた『もう少し』のふたりの生活が戻ってきた。
フリズレイヴは言った。「本当にお前……私といると4ぬかもしれないんだぞ、わきまえているのか」……アステリアは悲しそうに微笑んだ。「……4んじゃうのは、あなたの方かもしれないわよ?」
「……何言ってるんだ、私は人間とは違ってそんなに貧弱ではないぞ」……アステリアは少し戸惑いつつも、打ち明けた。「今まで黙っていてごめんね。私といると、みんな4んじゃうんだよ」
フリズレイヴは本当に言っていることが理解できなかったが、アステリアの様子からして冗談を言っているようには思えなかった。「……よく分からん、説明しろ」
アステリアは震えるような声で話した。ユアートに来る前に家族たちを失ったこと、自分だけが生きているということへの罪悪感、ここで人を避けるように独りで生活していたこと……。
「……そういうことか」アステリアはいろいろ思い返して、ポロポロと涙をこぼしていた。「あのな、お前……詳しい状況が分からないが、お前の家族が4んでいったのが自分のせいかもって、それは不可能に近いぞ」アステリアは言い返したりせず、静かに聞いていた。
「短期間で次々とというと、いくつか原因が考えられるが、どれもお前が原因とは言い難い。お前が4なせたというよりも、お前だけが生き残ったという方が正しいだろう。……お前は人間だ、ディアブルだったら同じように4なせてしまうことはあってもおかしくないが、人間にはそんな力はない。……ひとり生き残ったことが不幸だと思うかもしれないが、お前は強かったんだ。生き残った強さだけではない、今も生きている……幾多の悲しみに打ちひしがれなかった。もっと生きていることを誇ってもいいんじゃないか」
フリズレイヴなりに慰めようとしていた……。言われても信じられないことはある、完全に家族の4は自分のせいではないとはまだ思えない。でも……
「……もし、もし私があなたが言うように本当に強くて、生きる力があるなら……あなたと一緒にいても、きっと平気だよね。」
そこだけは前向きになれた。フリズレイヴの介抱をしていたとき、力が制御できていないから危ないと、嫌なほど言われていた。それでも心配だったから、うるさく言われようが寄り添っていた。それでも自分はこうして生きているというこの事実は、アステリアにとっては大きな根拠となったのだ。
「それは知らん」今までアステリアをまっすぐ見つめて話していたのに、フリズレイヴは急に素っ気なくそっぽを向いてしまった。でもその顔は、少し赤らんでいるようにも見えて。アステリアはおかしくて、ちょっぴり笑った。
さて、この『もう少し』の生活はいつまで続いたのか。ケティルのことを知っている方なら分かるかもしれませんが、知らない方でも、このフリズレイヴの優しすぎる・優柔不断な性格と、ちょっぴり(?)強引なアステリアの性格を考えると、先延ばしにされていることは想像できるかもしれませんね。
こちらのフリズレイヴ視点みたいな記事(優しすぎるがゆえに)がありますので、併せてご覧になっていただくとさらにお楽しみいただけるかと思います!



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